円筒埴輪の製作技法

更新日:2023年12月01日

 円筒埴輪の製作は、通常、底の方から粘土ひもを巻き上げながら、上に向かって少しずつ開く筒形に仕上げていきます(正立成形)。
 ところが、矢田野エジリ古墳の円筒埴輪の大部分は、約3分の2の高さまでを上に向かってすぼまる逆さの状態で製作し、その後、上下を逆転させ、残りの部分(口縁部)を積み上げています。
 この技法は朝顔形埴輪にも共通し、これを「倒立技法」と呼んでいます。特に尾張(おわり)地域との関係の深い地域で発見されており、また、韓国で発見された埴輪にも、同様の技法が確認されています。

倒立技法による円筒埴輪の製作工程のイラスト画

【倒立技法による円筒埴輪の製作工程】

円筒埴輪の下底面のたわみだ生じた倒立位置がわかるように矢印で示されている写真

 第1工程で下底面だったところは器肉が厚く、たわみも生じています。倒立後、その部分(倒立位置)には「タタキ」という須恵器の調整技法が使われるので、内面に同心円の当て具のあとが残されます。(写真は「円筒5」の内面)

お椀の底に4重の円の形が彫られた道具とその下に型をつけた粘土のようなもの、木でできた羽子板の形をした道具が並べられた写真

 内面に同心円文の道具を当て、外面から羽子板状の道具で叩いて整形します。

底部の違いでわかる3つの成形技法

丸い円筒の形でひびがはいっている円筒9の底部を写した写真

「円筒9」の底部

L字に屈曲して平らな面になっている円筒14の底部を写した写真

「円筒14」の底部

輪型を使った痕がある円筒13の底部を写した写真

「円筒13」の底部

 倒立技法でつくられた「円筒9」の底部は、第1工程で丁寧にナデ調整されているので、口縁部と同じような仕上がりです。
 正立状態で下から積み上げる「円筒14」は、底部がL字に屈曲して平らな面になっています。
 「円筒13」も正立状態で積み上げるものですが、底部に輪型を使った痕があります。紀伊地方を中心にみられる特殊な技法です。

「ハケ目」から想定される埴輪工人

3種類の木のへらで粘土を削り、その模様の違いを表している写真

木の板を使った工具で粘土を削るとあらわれるハケ目

 円筒埴輪の表面をよく見ると、「ハケ目」と呼ばれるたくさんの筋が見えます。これは、木のヘラをつかって表面を整えた痕です。実は、ハケ目はヘラのもっている木の年輪の筋なのです。
 円筒埴輪のハケ目をよく観察すると、筋の間隔、つまり年輪の間隔に違いがあることがわかります。この年輪の違いは、工具の違いでもあるわけです。
 矢田野エジリ古墳の埴輪を分析した結果、ハケ目が違うと細かな手法や作風も違うことが確かめられました。一人の工人(こうじん)が専用のハケ工具で製作していたことになります。約10人の埴輪工人が想定されていて、製作技法とハケ目の違いをもとにIA1などの分類番号を付けています。

約1ミリごとの間隔でハケ目がはいっている様子を調べている写真

IA1工人の使った細かいハケ目

約1.5ミリごとの間隔でハケ目がはいっている様子を調べている写真

IC工人の使った粗いハケ目

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